のび太達は何故か自分達がニコ博士達が悪者ではないかと思っている事が恥ずかしくなった。
ニコ博士があまりにもはっきりと「対立組織だ」と言った事がまるで自分達の心の中を見透かされたように感じたのだ。
ニコ博士はのび太達が恥ずかしそうにしているのを確認すると、会議を進めた。
会議はのび太達がよく分からない言葉がどんどん飛び交い、のび太達はその言葉をほとんど理解できなかった。
そして会議も大体終わったらしく、最後にニコ博士が優しい声でのび太達に言った。
「何か分からない事はあるかね?」
それを聞くと、待ち構えていた様に出木杉とのび太が手を挙げた。
ニコ博士はそれを見ると、まず出木杉に指さした。
出木杉はそれを見ると立ち上がり、研究員達へ問いかけた。
「さっき僕が襲われていた時、テイルさんが何か箱の様な物を使ったのですが・・・?」
その出木杉の質問にニコ博士は静かに答え始めた。
「あの箱は暗黒戦士を倒せる唯一の物体が入れてある。普通の人間には無害だ。まだ未完成なので威力の調節ができない事が玉に傷じゃ」
ニコ博士はそう答えると、次にのび太を指した。
「何故あなた達は22世紀の道具を使えるのですか? そして何故現代にいるのですか?」
のび太が落ち着いた表情で問いかけると、ニコ博士は答え始めた。
「あれは……五ヶ月程、前の事だった―わしらはタイムマシンでこの時代にある実験をしに来たのだ」
ニコ博士はそう言い終わると、その五ヶ月前の事を話し始めた。
………………………………………………五ヶ月前………………
「あれ……? おかしいぞ!」
実験が終わり、帰る為タイムマシンを動かそうとした時だった。
タイムマシンを動かそうとした研究員がそう後ろの方へと叫んだのだ。
すぐさまニコ博士と研究員達はタイムマシンの操縦室へと走った。
このタイムマシンは小型のタイムマシンとは違い、大型のタイムマシンなので操縦席と乗車席に分けられている。
操縦席と乗車席が同じだと操縦席の機械に負担がかかり易いからだ。
未来の大型タイムマシンは大体この様な感じになっている。
「何がおかしいんだ?」
まず、ルードがマシンを動かそうとしていた研究員に近づいた。
しかし、ルードが見た限り特におかしい部分は無く、いつも通り正常だった。
「何所もおかしくないじゃねえか」
ルードが少し呆れ気味でそう言うと、研究員は少し怒りながら言った。
「違うんだよ! 何所も壊れたりはしていないんだ、だけど……」
研究員の声はそこで何故か詰まってしまった。
そして、研究員が言った言葉は壊れたよりももっとたちが悪い事だった。
「時空間が何者かによって封鎖されているんだ。」
「何!」
その言葉を聞いた途端研究員達はかなり驚き、その研究員へ近づいた。
時空間が封鎖されているという事は時間旅行が全く出来ないという事である。
つまり研究員達は未来へ帰る事が全く出来なくなったという事である。
タイムマシン内は長い沈黙に包まれた。
しかし、しばらく経つとニコ博士がこの沈黙を破った。
「それならしばらくここで暮らそう。タイムパトロールが気づいてくれるであろう」
「博士、ちょっと待って下さい! 食料はどうするんです!?」
テイルがニコ博士が言った事に反論を言った。
「秘密道具があるだろ」
ニコ博士は乗車席へと戻りながらその反論に言った。
すると、研究員は急に黙り込み、乗車席へと戻って行った。
…………………………………………………………………………
「これだけだ。会議を終了する」
ニコ博士はそう言うと、足音をたてながら部屋の外へと出て行った。
他の研究員達も出て行っていき、部屋に残っているのはのび太達だけになった。
「だけど、今の話おかしいよ」
出木杉がそう言うと、のび太達もコクリと一斉に頷いた。
「何か、隠してるよね。絶対……」
四人はそう呟くと立ち上がり、部屋から出て行った―
「お前ら、こっちの部屋に来な」
さっきの部屋に戻り、休憩しているのび太達にルードが言った。
のび太達は少し乗り気ではないようだが、返事をしてルードが言った部屋に行った。
「よし、来たな」
ルードがそう言ったのを確認すると四人はどういう部屋なのか部屋を見回した。
その部屋にはバーベル等のトレーニング用道具、『戦闘の極意』等物騒な題名の本、そして22、23世紀の秘密道具であると思われる銃が何丁かあった。
ルードは四人が驚いているのを見ながら奥の方からノートパソコンの様な物を持って来た。
「さて、いきなりこんな物騒な部屋ですまないが、お前らにまずやってもらう事がある」
ルードがそう言うと、四人は緊張しているのか何も言わなくなった。
スネ夫はさっきのニコ博士の言葉を聞いてもまだこの組織が極悪組織だと思っていたのでずっとルードを睨んでいた。
その視線を感じたルードは呆れた様子で頭をボリボリかいた。
「さて、てめえらにやって欲しい事は簡単だ。この『適正武器決定機』の前に立ってくれ」
ルードがそう言うと、四人はルードが取り出しているノートパソコンの様な物を見た。
多分このノートパソコンの様な物がルードの言う適正武器決定機』であろう。
「じゃあ、まず僕がやります」
少しの沈黙の後、出木杉がそう言って適正武器決定機の前に立った。
「OK♪」
ルードはそう言うと、適正武器決定機のキーボードの様な物を触り始めた。
すると適正武器決定機のモニターに次々と出木杉のデータが表れた。
カチ♪ 最後にルードは軽くキーボードの真ん中にあるキーを押した。
「よし出木杉君、君の適正武器が分かったよ。剣だ」
ルードはそう言うと、ポケットから取り出した紙に何かメモした。
「よし、次の人来てくれ」
ルードがそう言うと、次にのび太が適正武器決定機の前に立った。
それを見るとルードはさっきと同じ行動を繰り返し、言った。
「野比君、君の適正武器は銃だ。かなり相性がいい」
ルードはそう言うと、さっきと同じようにメモをとった。
次にジャイアンが適正武器決定機の前に立った。
そしてまたルードは同じ行動を繰り返し、ジャイアンに言った。
「君の適正武器は大砲だ」
ルードはまたさっきと同じようにメモをとった。
「さぁ、次」
残りはスネ夫だけだったが、スネ夫はそう言われても動かなかった。
「どうしたんだ、骨川君!」
ルードがそう言ってもスネ夫はその場から動かない。
スネ夫はルードとのび太達をずっと睨んでいた。
ルードは段々イライラし始めたのか、拳をいつでも殴れる状態へ変えた。
「僕は……悪の手には……落ちないぞ……」
スネ夫はルードの態度を見て脅えたのか、少し呟く様な感じでそう言った。
「悪の手?お前何言ってるんだ?」
ジャイアンがそう言うとスネ夫はいきなり走り、部屋から出て行った。
少しの間のび太達は喋らず、そして動けなくなっていた。
スネ夫が逃げた― その行動がとても信じられなかったのである。
しかし、その小さな沈黙はジャイアンによって破られた。
「スネ夫を追い駆けよう!」
ジャイアンはそう言うと、物凄いスピードで部屋から出て行った。
ジャイアンに影響され、のび太と出木杉もスネ夫を追い駆けた。
ルードはそれを見ると、部屋の奥にある兵器を手に取り、走り出した。
「待てぇ!」
ジャイアンは速かった。いつもの学校の体育の時間での『速い』では無い、普通の大人の何倍もの速さでスネ夫を追い駆けていたのだ。
前にいるスネ夫との距離は少しずつだが、順調に縮まってきている。
後ろからのび太と出木杉の足音がするが、二人はまだジャイアンにさえ追いついていなかった。
(のび太達遅いな…… しょうがねぇ、俺一人でスネ夫を捕まえるか)
ジャイアンはただでさえ速かった走りをさらに速くし、スネ夫に飛び掛った。
スネ夫はそれを見ると驚いたのか急に立ち止まった。
ジャイアンの手はスネ夫の首まで後大体10センチメートルまで近づいていた。
もう、スネ夫はこれ以上逃げられないと誰もが思ったこの瞬間だった―
ドォン! そんな音がしたかと思うと、研究所の床から何かが飛び出した。
「何だこれはぁ!」
ジャイアンはその『何か』を見ると脅えたのか少し動かなくなった。
そして次の瞬間、『何か』はジャイアンを物凄い勢いで襲った。
ジャイアンは悲鳴を上げて助けを呼ぶ事すら出来なかった―
そして、その攻撃を喰らうとジャイアンはその場に崩れ落ちた。
ジャイアンが掲げていたガキ大将という称号がまるで嘘の様だっだ。
ジャイアンを倒した『何か』の正体は巨大な戦闘用ロボットだった。
ギー そんな音がしたかと思うとその戦闘用ロボットの足がドアの様に開き、ロボの中から人が現れた。
「……暗黒……戦士……?」
スネ夫の息が急に荒くなった。スネ夫はメンバーの中で一番暗黒戦士に恐怖していた。
いつもの冒険の敵でさえも恐怖しているのに、暗黒戦士はいつもの敵とはレベルが違う強さだったからだ。
スネ夫が恐怖で動けなくなっているのを見ると、暗黒戦士が急に言った。
「我々の組織に入らないかね?」
「え?」
スネ夫は驚いた。てっきり自分を殺しに来たのかと思っていたのに襲われなかったのだ。
暗黒戦士はそのスネ夫の様子を見るとニヤリと笑った。
「こんな悪の組織なんかやめ、我々の組織に入らないかと言っているのだ」
暗黒戦士の声はさっきの声よりも少し厳しい声になっていた。
スネ夫は少し考える素振りを見せると暗黒戦士に向けて言った。
「はい、入ります」
スネ夫のその言葉には迷いは見られなかった。
元々ニコ博士達を悪だと思っていたスネ夫だ。
ニコ博士達の組織を悪の組織と言う人に誘われたら何も怪しいと思わずすぐにその組織へ入ってしまうであろう。
「フフフ…… それならばこの戦闘ロボットに入ってくれ」
その言葉を聞くとスネ夫はまるで何かに操られる様にロボの中に入っていった―
ゴウン…… スネ夫がロボに乗り込むと、そのロボは少しずつ動き始めた。
どうやらさっき空けた巨大な穴から外へと戻ろうとしているらしく、ロボが少しかがみながら穴へ近づいていく。
倒れたジャイアンは気絶、またはケガをしているのかピクリとも動いていない。
ロボがもうすぐ穴へと入りそうなその時だった。
「スネ夫!」
やっと追いついたらしいのび太の声が研究所に響いた。
のび太の後ろには出木杉と武器をいくつか持っているルードがいる。
「えっ……?」
出木杉は落ち着いて目の前を見渡すとそう呟いた。―かなり混乱している様子だ。
ロボ内にいる暗黒戦士がのび太達を見て驚いたらしく、ロボの動きが止まった。
「ジャイアン!」
出木杉と同じ様に辺りを見回したのび太は倒れているジャイアンへ近づいた。
のび太の行動を見た出木杉もジャイアンの所へと走った。
ルードだけはジャイアンに近づかないでロボに睨みを利かせていた。
「ジャイアン!何が起こったんだ!」
のび太がジャイアンを起こしながら叫んだがジャイアンは動かない。
―短い廊下にのび太と出木杉の荒い息が響く
少しの沈黙が奔り、のび太と出木杉は犯人だと思われるロボを睨んだ。
そして出木杉がロボを睨みながら怒りの声で叫んだ。
「武君に何をした。……そしてスネ夫君はどこにいる!」
出木杉のその叫びは廊下によく響いたが、ロボは動かない。
まるで出木杉の言葉が存在しなかった様な光景が廊下に広がる―
ドカァン! 目が覚めるような爆発音が廊下、いや研究所に響いた。
ルードが大砲の様な武器を使用したのだ。あの部屋から持ってきた武器だ。
その大砲の弾が直撃したロボからはモクモクと煙が湧き出ている。
のび太と出木杉はいきなり起こったこの出来事に着いていけなかった。
さっきから動いてなかったロボもその砲撃のせいでやっと動き始めた。
「ルっルードさん一体……」
のび太が言葉の前後に言葉にならない言葉を上げながらルードに言った。
だがルードは無言のまま動き始めたロボを睨んでいた。
ロボは手の甲の部分から銃を出し、その銃の銃口をルードに向けた。ルードも持っている大砲をロボに向けた。
ドオォン! さっきの爆発音の何倍もの爆発音が当たりに響く―
汚れの無い白き煙が廊下に充満し、ルード達の姿を隠す。
ドォン! 煙で相手が見えないはずなのにルードは大砲を撃った。
ルードの眼はさっきまでの眼では無く、闘う男の眼であった。
のび太と出木杉はルードから湧き出てくる殺気のせいか指を一ミリ上げることすら出来なかった。
そしてその大砲が確実に何かに当たった音が煙の中に響く。
「これが俺の適正武器だ。分かる?」
ルードは煙の向こうの敵に向かってそう言うと、大砲をもう一発撃った。
そしてまたもや何かに当たった爆発音が煙に響く―
しばらく経つと研究所に充満していた煙が消え、辺りが見え始めた。
そして三人の目の前には燃え盛るロボットの残骸があった。
のび太と出木杉はその迫力に押され、何も喋れなかった。
「逃げられちまったなぁ……」
ルードはロボットの残骸に一歩近づくと落ち着いた声で言った。
「すっすいません。スネ夫は?」
やっとちゃんとした言葉を言えたのび太がルードに問いかけた。
「スネ夫? あのチビか。裏切った、気配で分かる」
ルードの思いがけない答えにのび太と出木杉はまた言葉にならない言葉を発し始めた。
「スネ夫が……裏切った……!」
のび太はしばらく言葉にならない言葉を発した後、ルードを指差しながらそう言った。
ルードはのび太の声を聞くと、真剣な眼をしながら頷いた。
出木杉はスネ夫が裏切った事を受け止めたらしく、ジャイアンの様子を見ていた。
しかし、のび太は出木杉とは違った。いつものび太を虐めていても、彼は立派なのび太の親友なのだ。
その親友が自分達を裏切り、悪に回ったなんて信じられないのは当然であろう。
ルードはそれを呆れながら右ポケットからクシャクシャの煙草の箱から一本煙草を取り出し、左ポケットにあったライターでその煙草に火を点け吸い始めた。
辺りに煙草の煙が充満し始め、のび太が咳き込み始めた。
「裏切りっつうのは煙草の煙と同じだ」
「へ?」
ルードのその言葉にのび太は驚き、出木杉はその事について考え始めた。
「煙は風が無いと前へ行くが風があると裏切り、俺の方へ「攻撃」して来る。煙が自分の方へ絶対に来ないようにするには風が来ない部屋で吸えばいい」
そのルードの言葉を聞くと出木杉は分かったと今にも言いそうな顔になった。
しかし、のび太は出木杉とは違って全く分からず、頭をクシャクシャにしながら考えていた。
「つまりこういう事だ。いつも味方に付いているという味方も、強い力を見せ付けられたらいとも簡単に……裏切るんだよ。だが、裏切らないようにするには「信頼」という家にいればいい」
ルードが頭をクシャクシャにして考えているのび太に少し呆れながら言った。
だがのび太はまだ分からない所があるらしく、頭をクシャクシャにしている。
そして、のび太はまだスネ夫が裏切った事も信じられない様子だった。
「部屋に戻るぞ。剛田はてめえらのどっちかが担いで来い」
ルードはそう言うと煙草を吸いながら部屋の方へと歩き始めた。
出木杉は言われたとおりジャイアンを担ぎ、部屋へと歩き始めた。
「……」
だがのび太はその場を動かないで、ロボットの残骸を見ていた。
もしかしたらヒョッコリこの残骸からスネ夫が出てくるんじゃないか―
そんな期待を心の中で抱き、その場にいたのであった。
だが、そんな残骸からスネ夫が出てくるわけは無い。
「のび太君、ルードさんが言った事は君を励ます意味もあるんだよ」
ジャイアンを担ぎながら出木杉がのび太に言った。
「え?」
のび太は出木杉の言った事を聞きたいらしく、出木杉に近づいた。
「確かに「煙」のスネ夫君は裏切ったかもしれない。だけれど、僕達が風になればスネ夫君は戻ってくるんだ。ルードさんはそういう意味でも言ったんだと思うよ」
のび太は出木杉のその言葉を聞き、大きく勇気付けられた―
「スネ夫が裏切った!?」
ジャイアンが言った。
のび太達が一番最初に案内された部屋に戻って一時間経った。
その間にジャイアンは起き、のび太達がスネ夫の事を説明したのである。
そして説明し終わった後にジャイアンが言った第一声がさっきの言葉である。
その言葉を聞きスネ夫が裏切った事を認めたかと思うと、やはりジャイアンものび太同様すぐにはスネ夫が裏切った事も受け入れない。
まあ、それは当然のことであろう。スネ夫とジャイアンはいつも一緒にいたのだ。二人は正に「心の友」であったのだ。
その「心の友」が裏切ったなんてそう簡単に信じることは出来ないであろう。
「武君、スネ夫君は裏切った。だけれどもスネ夫君は僕達の仲間に戻れるんだ。……僕達が頑張れば」
スネ夫の裏切りを信じないジャイアンに、出木杉が説得を始める。
のび太はその出木杉の説得にただ感心するばかりで、何も出来なかった。
まぁ、のび太がその会話に入ったら邪魔になるだけであろうからそのままで良かったのだろうが。
さすがにジャイアンも出木杉の説得には敵わない、十分程で説得されてしてしまった。
そしてジャイアンは説得されてから少し経つと急に立ち上がり、ドアへと近づいた。
「ジャイアン、何所へ行く気?」
それを見たのび太が少し心配そうな顔でジャイアンへ言った。
するとジャイアンはのび太と出木杉の方を向き、堂々と言った。
「スネ夫、そしてドラえもんを連れ戻す!」
「え!?」
二人はジャイアンの意気込みと迫力のせいで驚き少し動けなくなった。
ジャイアンがドアのノブを握り、外へ出ようとした瞬間だった。
コンコン― 誰かがのび太達のドアをノックした。
「はい」
ジャイアンは出るついでと思い、返事をしながらドアを開けた。
ドアの向こう側にいたのはにこやかな顔をしたテイルが立っていた。
「テイルさん!」
出木杉が少し驚き気味でテイルに向けて言った。
「剛田君、君は暗黒戦士の基地へ攻め込む気だってね。」
テイルは眼の前にいるジャイアンに向けて笑いながら言った。
ジャイアンはテイルに心の底を見透かされた様な感じで少し驚いた。
「心配する事はない、ただ旦にドア越しに聞いただけだよ」
テイルのその言葉でジャイアンは少しホッとした様な顔を見せた。
「攻め込むと言っても君は基地を知っているのかい?」
「あ」
テイルの鋭い質問にジャイアンは答えられなかった。
どうやらそこまで考えて行動していなかったらしい。普通はそこから考えるはずなのだが。
のび太と出木杉も「そういえば」と言いたそうな顔であった。
「考えていなかったようだね……」
テイルが少し呆れ気味でジャイアンを見た。
「なら、その計画。僕らが協力してあげようか?」
テイルのその言葉の後、その部屋はしばらく沈黙に包まれた―
「テイルさん、その協力とは?」
その沈黙も出木杉により破られ、出木杉はテイルの言葉『協力』に対し問いかけた。
するとテイルはいつも通りの優しく、にこやかな笑顔を見せその質問に答えた。
「つまり、我々が武器、兵を提供したり暗黒戦士の基地を教えたりする事さ」
「え……?」
その言葉を聞くと、出木杉とジャイアン、そしてのび太はそれぞれ顔を見合わせた。
のび太達はそんなに都合のいい事があるのか、その心配と暗黒戦士を倒せるかもしれないという期待が混ざり合った顔であった。
「それじゃぁ、我々に協力してもらいたいならさっきルードが連れてった部屋に来てくれ」
テイルはクスクス笑いながらそう言うと、のび太達の部屋を去って行った―
テイルがその場から立ち去ると、のび太達は落ち着いてもう一度顔を見合わせた。
そして、この瞬間に彼ら三人が思っていた事は全て同じ事であった。
「行こう。万全の準備で行った方がいい」
出木杉は部屋のドアを開きながらそう言った。それを聞くとのび太とジャイアンも歩き出した。
しばらく廊下を歩いていると、さっきルードと行った部屋が見えてきた。
きっと中にテイルや研究員達がいるのであろう。三人は部屋が見えてくると歩く速さを速め、ドアへと近づいた。
「開くぞ」
ジャイアンはそう言うと、ドアの取っ手を掴みドアを開いた。
案の定、中にはテイルとまだ名前の知らない研究員、そして強力そうな武器が置かれていた。
「よく来た」
テイルは少し厳しい顔をしながら、のび太とジャイアンと出木杉の三人に向けて言った。
三人は知らない研究員がいるせいか緊張しているらしく、テイルの言葉に反応を出来なかった。
その知らない研究員の特徴を述べておこう。まず、最大の特徴は眼鏡をかけている事だ。多分、ただの眼鏡では無いであろう。
そして髪は日本人らしく黒で、着ている服はテイル達が着ているのとは少し違う白衣であった。
「あっそうそう、こいつの名前は一彦」
「カズで良いっつーの」
その研究員、いやカズは少し笑いながら言った。そのカズの声は男にしては高い声であった。
「それでは、説明をしよう」
カズの紹介が終わるとテイルは真剣な眼になり、話し始めた。三人の緊張が高まる。
「まず、お前らの適正武器を一つ一つ説明する。まず、出木杉!お前の武器の名は『電光丸k‐432』……強力な剣だ」
テイルがそう言うとカズが近くに置いてあった剣の様な武器を掴み、出木杉に向けて投げた。
出木杉はその『電光丸k‐432』を受け取り、その剣を眺めた。輝きが素晴らしく、出木杉は眼を輝かせていた。
多分この道具、そして今からのび太達に手渡されるであろう武器は全て秘密道具であろう。
「次、野比!お前の武器の名は『熱線銃-改良E300』……要は強力な銃だ」
さっきと同じようにカズが武器の中から銃を取り出し、のび太に向けて投げた。
「うわっ、おっとっと……」
しかし、皆さんご存知の通りのび太は鈍感、しかも不器用だ。銃を受け取ろうとしたが床へ落としてしまった。
ジャイアンと出木杉の二人は額に手を当てながら呆れていた。まぁ、当然であろう。
「次、剛田!お前の武器の名は『空気砲-C657』……民間武器空気砲の何億倍の威力を持っている」
カズがその『空気砲-C657』を掴み、ジャイアンへ向けて投げた。ジャイアンはもちろんそれを見事にキャッチし、その武器を眺め始めた。
「それでは、これから暗黒戦士の基地へ潜入する計画を説明する!」
テイルの口調、そして声がさっきまでの優しい言葉から厳しい口調と声に変わった。
「今回の潜入メンバーは野比のび太、出木杉英才、剛田武、端山一彦。隊長は端山一彦とする!地図等は隊長が持つ!詳しい事はこの計画書に書いてあるので読むように!」
テイルはそう言うとポケットからその計画書を取り出し、三人に配った。
「それでは、出発するように!」
テイルはそう言い終わると堂々とした足音をたてながら部屋から去って行った―
「これからの行動を説明する」
テイルが部屋から出て行ってしばらく経つと、カズが三人を真剣な眼で見ながらそう言った。
のび太達は武器からカズへと目線をずらしカズの説明を聞く事にしたらしく、武器を床へ丁寧に置いた。
「今からどこでもドアで暗黒戦士の基地から約1キロ離れた林の中へ向かう。それから暗黒戦士の基地へと進み、侵入する。以上」
カズはそう言うと、サイドポケットに手を突っ込み緑色のどこでもドアを取り出した。
「すいません……。質問があるんですけど……良いですか?」
だが、カズの言葉に疑問を感じたのか、出木杉が少し脅えながら手を挙げた。
カズはそれを見ると、少し睨み頷いた。
「どうして1キロも離れた場所なんかに向かうのですか?」
出木杉の鋭い問いかけに、ジャイアンとのび太は少し驚きながらも感心した。
「簡単な事さ。例えばだ、いきなり暗黒戦士の基地へ侵入するとする。するとだ、間違いなく何かの装置が作動するわけだ、だが1キロも離れていれば様子を見ながら基地へ近づける。だからだ」
カズは出木杉の質問に答えると、緑色のどこでもドアを開きその中へ入って行った。
のび太達はそれを聞くと、「なるほど」と手を叩きカズと同じ様にどこでもドアの中へと入っていった。
ドアの向こうにはカズが言ったとおり、林が広がっていた。だが、その場所は林と言えるのであろうか―
地面には品種がよく分からない草が広がり、周りにあるのは変な蔓が絡まった木が何本も生えている。
木の陰から凶暴な猛獣でも出てきそうな風景で、林というよりはまるでジャングルの様だ。
のび太達は本能的にさっき受け取った武器を構え、辺りをキョロキョロ見回っていた。
「進むぞ。ここからはあまり喋るな」
カズはかなり小さな声でのび太達にそう言うと、身構えながら一歩一歩歩き出した。
のび太達はそれを聞くとさらに緊張し、一歩一歩がかなり慎重な歩き方になりゆっくりと歩き出した。
静かな沈黙の中、四人は地面に足の踏み場も無い位、生えている草を踏み倒しながらも暗黒戦士の基地へ向かい堂々と歩いていた―
ガサ…… そんな中、このジャングルの何所からか何かが動く音が彼らの耳に聞こえた。
「止まれ」
その音を聞くとカズは小さな声でそう言うと小型の槍を取り出し、構えた。どうやらカズの適正武器はこれらしい。
のび太もさっき貰った『熱線銃-改良E300』の引き金に手をかけ、出木杉も剣を構えた。ジャイアンは辺りをキョロキョロ見回しながら『空気砲-C657』を撃つ体勢に移った。
バキッ! 近くの木の枝が折れた音がし、のび太達は一斉にその音が聞こえた方向を向いた。
だが、その方向は枝が折れた以外は何も変化が無い、人の気も感じられないようだ。
バァン! その瞬間であった。銃声が辺りに響き、銃の弾がカズの頬を掠めた。―掠めた頬から少量の血が流れた。
ガサ……ガサリ…… 断続的に動く音が聞こえ、彼らの後ろから火薬の臭いがしてくる。
「ドカン!」
ジャイアンが本能的に身の危険を感じ、振り向き様にそう叫んだ。その瞬間、ジャイアンの武器『空気砲-C657』から巨大な空気の塊が物凄い勢いで発射された。
バキバキ…… だがその空気の塊は人に当たらず、後ろにあった大木に直撃し、大木は倒れ始めた。
「やばっ!」
四人は急いでその倒れゆく大木から離れ、辺りを見回した。だが、彼らの周りに人影は無い。
バン! そしてまた、何所からか銃声が聞こえ弾がカズを狙う。
だが、さっきと同じでは無かった。カズは弾を見ないで弾から華麗に避け振り向きながら槍を構えた。
「なっ……」
カズは驚き、持っていた槍を地面へと落とした。槍が落ちた音が辺りに響く。
のび太達はカズが槍を落とした音を聞き、それぞれの武器を構えながら振り向いた。
すると彼らの眼の前には煙が出ている銃を持った男がいた。……恐らく暗黒戦士であろう。
「どうしたんですか、カズさん!」
出木杉が剣を構えながらカズへとそう叫ぶ。だがカズは槍を落とした時の体勢のまま、全く動かない。
「カズさん!」
のび太達がカズへとそう叫ぶ音が静かな森に響いた―
のび太達が何と言ってもカズは驚き、悲しみが混じっている顔のまま表情を変えず、動かなかった。
それを見ると目の前にいる暗黒戦士はニヤリと鬼の様な顔で笑い、カズを笑った眼で見た。
「久しぶりだなぁ、一彦」
その暗黒戦士はさっきの笑った眼を鬼の眼に変えカズへ向けてそう言った。
それを聞くとのび太達は驚き、カズはさっきからの表情をさらに落胆した表情になり、下を向き始めた。
「攻めないのか?こちらから行くぜぇ。一彦先輩♪」
暗黒戦士は馴れ馴れしくカズへそう言うと、手に持っている銃の銃口をカズに向け、引き金に手を掛けた―
カツカツカツ― 薄暗い、まるで今にも幽霊が出てきそうな不気味な廊下に足音が響く。
その足跡を発している男は懐中電灯で辺りを照らしながらその薄暗い廊下を歩いている。
「……こんなに人質をさらったとはな。さすが攻撃部隊ってか?」
その男は急に立ち止まり、その廊下の端にある小さな牢屋を懐中電灯で照らしながらそう呟いた。
その牢屋の中には数人の成人男性と女性、そして数人の少年少女がロープで縛られた姿で入れられていた。
男は牢屋に近づき、鍵の確認をしてからその牢屋の前から早々と去って行った。
―その牢屋の中にはいつものメンバーの一人、源静香が人質として入れられていた。
どうやら暗黒戦士達が練馬区に攻め入った時に人質として連れて行かれたらしい。
「のび太さん達……どうしているかな……」
静香はそう小さな声で呟くと牢屋の鉄格子にもたれかかり、牢屋の中で寝始めた―
バァン! その銃声とともに、カズの痛がる悲鳴がジャングルに響いた―
銃の弾は残酷にもカズの右足に突き刺さり、のび太達はその事に恐怖し、オロオロするのみとなってしまった。
「先輩、随分と弱くなりましたね。ん? 私が相手だからですか?」
暗黒戦士はカズに向けてそう言うと銃から出る煙を止めながらケラケラと侮辱するように笑っていた。
それを聞いたジャイアンは暗黒戦士を怒りの眼で睨み、『空気砲-C657』の銃口を暗黒戦士に向けた。
「てめぇ! ドカン!」
ジャイアンがそう叫ぶとさっきと同じ様に強力な空気の塊が空気砲から発射され、暗黒戦士を襲った。
だが、その空気の塊は暗黒戦士には当たらず暗黒戦士の後ろにあった木に勢いよく直撃し、木を破壊した。
暗黒戦士はいつの間にかジャイアンの眼の前に移動し、銃口をジャイアンの額に突きつけていた。
「ジャイアン!」
それに気づいたのび太と出木杉は剣と銃を構え、暗黒戦士に攻撃する体勢になった。
「へぇ……。僕に攻撃するつもりですか? この子は人質なんですよ?」
「!!」
暗黒戦士の言葉にのび太達は驚き、そして納得してしまいその場から動かなくなった。
のび太達の近くにはまだ悲鳴を上げているカズが倒れている―
ジャングルが、ざわめいた―
ドクンドクン、ドクンドクン― 普通なら聞こえる筈も無い、彼らの心臓の鼓動がざわめくジャングルに響く―
倒れているカズの右足からは止まりそうも無い血が流れ、カズの体にはかなりの激痛が走っていて当然動けない。
ジャイアンが人質に取られているので、のび太達は人の手を借りないと動けない操り人形(マリオネット) の様な状況に立たされていた。
「それでは、そろそろ殺さなければ私の立場が危ないので……」
暗黒戦士はそう言うと、ジャイアンに向けている銃の引き金に手をかけ残酷な笑顔をのび太達に見せた。
その行動を見た一瞬、のび太の顔はわけ分からない顔になり出木杉は完全にパニックしている顔になり、今まで無反応だったカズも驚愕した。
「ドカァン!」
その時だった、あの言葉を聞いて一人だけ急に冷静になって考えていたジャイアンがそう叫んで『空気砲-C657』をぶっ放した。
その威力によりジャイアンの足元には巨大な穴が空き、そして巨大な音とともにジャングルのその場所に土埃がたった―
暗黒戦士は『空気砲-C657』の威力によりジャイアンの近くから銃と共に吹っ飛び、ジャングルの巨木へと叩きつけられた。
だがのび太達も暗黒戦士と同様、土埃で辺りが全く見えないので辺りで何が起こったのか分からない―
暗黒戦士も辺りが見えないのでその場を動けない、土埃が消えるまでその場は妙な沈黙に包まれた。
バァン! 土埃が薄くなったその瞬間、のび太は『熱線銃-改良E300』を木にもたれ掛かっている暗黒戦士に向けてぶっ放した。
「ちっ……」
だが暗黒戦士は舌打ちをした後その熱線の弾道から一瞬にして、まるで奇術(マジック) の様に消え去った。
熱線は弾道を変えないままジャングルの大木を何十本か焼き尽くし、一瞬にして灰へと変えた。
「死んどけ」
さっき熱線銃の弾道から消え去った暗黒戦士はいつの間にかのび太の後ろに回り、銃をのび太の頭に突きつけた。
タラリ…… 銃を突きつけられているのび太の頬に恐怖による冷や汗がつたる―
「状況はさっきと変わらないぜ、残念だったな……。いや、希望の後の絶望だからこっちの方がショックが強いだろうな」
暗黒戦士はあざ笑う様にそう言いながら銃の引き金に手を掛け、驚愕の顔のままのカズを睨んだ。
「それでは、一人目ですよ。先輩♪」
バァン― その銃声がざわめくジャングルの闘いに終止符を打った―
「新たな、『人質』らしいなぁ……」
そう言っている暗黒戦士の首領の前には、スネ夫を戦闘ロボに入れた暗黒戦士とスネ夫の姿があった―
どうやらここはドラえもんが一番最初に入った暗黒戦士の首領の部屋らしく、首領は巨大な椅子に腰かけている。
「ひっ人質!?」
スネ夫は驚いた― 何しろスネ夫はこの言葉を聞くまで暗黒戦士の仲間になる気でいたのだ、驚くのは当然の事であろう。
だが、普通ならスネ夫を連れてきた暗黒戦士も驚く筈なのに暗黒戦士は驚くどころかニヤニヤ笑っている。
カチッ 首領はニヤニヤ笑いながら、椅子に取り付けてあったボタンを悪魔の様な顔で押した―
ガタンッ そんな音がしたかと思うと、スネ夫の真下に何百メートルはあろう穴が現れたのだ。
「うわああぁぁぁぁぁ!!」
スネ夫は悲鳴と共に吸い込まれる様に穴の底へと猛スピードで落下していった―