「野比のび太は30分後に首をつる。40分後には火あぶりになる」
「誰だ、変なこと言うやつは。出てこいっ」
- * -
【22世紀 航時省】
「良いのですか閣下? 彼の申請はどう見ても自己利益のためです。航時法に違反します」
若い男の問いに、閣下と呼ばれた初老の男はこう答えた。
「確かに通常なら航時法違反だよ笹村君。だが、これは違反でない。何故ならば、彼の歴史修正申請は、今が今であるために必要なのだ」
この返答に笹村は驚いた様子だ。
「と、言いますと……?」
「實は、今の歴史は少々歪んでいるのだよ。本来あるべき正しい流れではないんだ。つい最近判明したことなんだがね。それでだ。その歪んだ歴史の修正には、分岐点となる出来事のすべてに、ある人物が関わる必要があるんだ」
閣下はそう述べると、モニターに少年の映像を映した。
「それがこの、少年時代の『野比のび太』だ。そう、あの猫型ロボットはこの人物の歴史修正を申請してきた。まあ、申請してくるように仕向けたんだがね。――結果、猫型ロボット『ドラえもん』は『野比のび太』の歴史修正を行ふために過去へと行き、あとは不思議なことに、我々が特に干渉せずとも、その修正すべき出来事に彼らが関わることになる。つまり、歴史が正しい流れに戻ることはほぼ確定した」
信じ難いのだろうか。笹村は「それは本当なのか」と聞いた。
「本当だとも。何故嘘をつかねばならんのだ。まあ確かに信じ難いことではあるがな。『風が吹けば桶屋が儲かる』の如く、これが意外なところへと影響を及ぼして、歴史の流れが正しく繋がる。……全く不思議な話だよ。『時』とは本当に面白いものだ」
閣下はそう言って、椅子に座り直した。そこでふと、笹村はある事を疑問に思った。
「彼……ドラえもんの歴史修正は上手くいくのでしょうか?」
「修正は上手くいく。それは決まっていることさ。――今が今であるからにはね」