女王の洋室

○曇った空、鉄格子に囲まれた家、画面中央に「女王の洋室」のタイトルが。紋白蝶が一匹飛び回っている。

ナレーター(声のみ) この物語は、鬼のような教育ママゴンに、一家の男性諸君が戦いを挑んだ、一日の記録。

○場面が移り、のび太の部屋。窓から日が差し込んでいるが、のび太はまだねむっている

ナレーター(声のみ) 平日の7時半。彼等の戦いは、ここから始まる。

○スーッとふすまが開き、玉子が凄い形相で入ってくる。

玉子 のび太、おきなさい。 いい加減目覚めなさい。

のび太 は、は、は、はい。長官。

玉子 何を寝ぼけてるの。早く朝御飯食べなさい。

のび太 はいはい。

玉子 返事は一回。

のび太 はーい。

玉子:返事は短く。

のび太 はいはい。

○玉子、手近にあった新聞紙を丸めてのび太の頭をひっぱたく。

玉子 ママの言うことを聞かなかった罰として今日からあなたの朝食は毎日ピーマンのピーマン詰めです。

のび太 それって要するにピーマンでしょ?

玉子 (顔を赤くして)んなわけないでしょ。 ピーマンの中にピーマンが入ってるのよ。 似て非なるものよ。

のび太 そうなの?

玉子 (手をパンパンと叩きながら)はいはい、文句の時間はおしまい! さっさと降りて食べないとピーマンのピーマン詰めをピーマン風味に仕立てるわよっ

のび太 どへえ、それだけは勘弁。

○のび太、大慌てで階段を降りる。それに次いで玉子も降りる。

○場面変わって食堂。のび助とドラえもんが椅子に座って朝食を待っている。そこへのび太と玉子が入ってくる。のび太、椅子に座る。

ドラえもん おはよう、のび太君。

のび太 おはよう。

のび助 おはよう、のび太。

○玉子、三人の前にご飯とみそ汁を配置する。そして中央にイワシが2匹のった皿を置く。

ドラえもん ええ〜、これだけ〜?

のび助 ちょっとママ。これはいくらなんでも手抜きじゃないのか?

玉子 しょうがないじゃない。高級おフランス製香水を買ったから、その分今日の朝食代、削っておいたから。

のび助 また無駄遣いして…

玉子 なんですって。私が綺麗になっちゃ悪いって言うの。

のび助 いや、そんなつもりじゃ…

玉子 罰としてあなたのお小遣いを少し減らします。

のび助 ええっ。そんな。ただでさえ今でもスズメの涙のきれっぱしなのに…

玉子 言い訳は無用。もっと減らされたくなかったら、文句を言わずに食べなさい。

のび助 ぐすん。

○画面が変わり、野比家の前。のび太とのび助が玄関から「行ってきます」と言いながら家を飛び出す。

ナレーター(声のみ) 現在午前8時。二人が学校へ行っている間、玉子はますます自分勝手になっていく。

○画面が変わって和室。玉子が寝転がってテレビのワイドショーを見ている。

玉子 あはは、そんなわけないじゃない。やっぱりこの人、ウソついてるわ。

ナレーター(声のみ) よく母親は縁の下の力持ちといわれるが、この玉子は例外である。家の仕事のほとんどをドラえもんにやらせ、自分はワイドショーを見てごろごろする日々をおくっている。そのせいで太ったりしているのだが、結局そのストレスは男性陣に向けられるため、結局男性陣が一番辛い思いをするはめになるのである。

○ドラえもんがふすまを開けて入ってくる。

ドラえもん 終わりました。

玉子 ご苦労様。次はお風呂場お願いね。

ドラえもん …はい。

ナレーター(声のみ) 彼、ドラえもんは玉子に対する一番的確な対処法を知っている。抵抗しないことだ。玉子はこの家の様々な実権を握っているため、他の家族、ましてや居候の身など、彼女に歯向かえば待っているのは、即、死である。彼、ドラえもんは家族の中で一番玉子と接する時間が長いこともあり、自然とこういうことがわかってくるのだ。

○画面が変わり、家の前。のび太が駆けて家の中に飛び込む。

ナレーター(声のみ) 午後3時。のび太が帰宅する時間。一般的にはこの時間帯が、ドラえもんと言う番組の舞台とされることが多い。

○のび太の部屋。ドラえもんが漫画を読んでいるが、そこへのび太が飛び込んでくる。

のび太 ドラえも〜ん!

ドラえもん ど、どうしたの? のび太君。

のび太 それがね、ジャイアンが…

○画面が移り台所。玉子がガスコンロの前で何か作っている。

ナレーター(声のみ) 彼女が唯一、真面目に働く時間はこのときのみである。夕食を作る時だ。彼女は料理の腕は中の下くらいだが、最近はグータラ生活が身について、ますます手抜きになりつつある。

○玉子が鍋の前から離れて、廊下に向かって叫ぶ。

玉子 みんな、ご飯ですよ。

男達、はーいと返事をして、台所に駆け込んでくる。

○テーブルの周りには四人が座っている。中央には鍋があり、その周りにはご飯とみそ汁が4人分配置されている。

のび太 え〜、ママ、また具なしコンソメスープ?

ドラえもん 昨日は『明日こそシチューを作りますからね』って言ってたよね?

のび助 せめてドーピング仕様にしてくれればいいのに。

玉子 なんですって。二人して、タッキーが来ると聞いたのにワッキーが来た時の細木数子みたいな顔しちゃって。

のび太 なに、その回りくどい例え。

玉子 なんですって。のび太、もうあなたには最終処分しかないようね。

のび太 え。 まさか。

玉子 漫画ボッシュート!

のび太 ええーっ!

ナレーター(声のみ) 玉子は息子、のび太の統制を図るために、彼が全財産を費やしてきた漫画を捨てることを決行する。これは、テストで赤点を5枚ずつ取った際や、今回のように玉子の考えに茶々を入れるようなまねをすると、すぐこの処分を受けるのである。

のび太 (急に立ち上がって)もう怒ったぞ。 ママばっかり楽して、僕らはいつもひどいめにあっているじゃないか。

玉子 (憤慨して)なんですって。

ドラえもん (賛同するように腕を振り上げて)そうだ。いくら僕でももう怒るぞ。

のび助 (拳を天井に突き出して)僕もスト起こすぞ。お小遣い増やせ。

のび太 (顔を真っ赤にして)そうだ。ついでにこれまで捨てた漫画も弁償しろ。

ドラえもん (声を裏がして)たまには自分で働け。

のび助 (労働組合の演説の如く)休日はのんびりさせろ。

○玉子の背後から怪しい影が伸びてくる。

玉子 そう… 荒地のママに逆らおうとはいい度胸ね…

ドラえもん (キャラが違う!?)

のび太 ま、まずい。心臓とられちゃう。

のび助 安心しろ。取る心臓はたしか若い女の人の心臓だけだ。

ドラえもん (そしてこいつらはバカ過ぎ!)

○玉子がかめはめ波の体制をとる。

玉子 片岡家究極奥義。 すうぱあ片岡玉。

○玉子の手に丸い火の玉のようなものができてくる

のび太 (腰を抜かして)まずい。「あれ」がくるぞ。

ドラえもん (裏口を指差して)逃げろ。そっちから。

のび助 (もはや諦めて)だめだ、もう終りだ。

玉子:かー、たー、おー、かー、波―――――――――――――っ…

○カメラの前が真っ白になり、砂嵐が写る。1,2秒後画面が戻り、崩壊した台所で、玉子が一人で堂々と立っている。

ナレーター(声のみ):究極の最新奥義を搭載した野比玉子は、突如この家を支配し始めた。それから数ヶ月。野比家は独裁主義の家に変わり行く。助けたい。その思いは、彼女の力を超える…

○半壊した野比家をバックに、女王の洋室 完 というタイトルが移り、次第に画面が暗くなり、終わる。

あとがき:

筒井康孝の「廃塾令」の書き方を参考にして書いてみました。

こういった作品は書いてて面白いです。